走り続けた16年(80)

置き去られた乳児③

平成16年3月19日、本町5丁目の教会の玄関前に乳児が遺棄されました。遺棄された女児が発見された時、毛糸のおくるみで包まれたベビー服だったようです。私が確認した所持品は紙おむつとおしゃぶり、5千円札1枚、手書きのA4のレポート用紙に書かれた手紙と小さな段ボールでした。その手紙は細かい字できちんと書かれた大変リアルな内容で、母親として自分の生んだ子どもを遺棄せざるを得なかった辛く苦しい心境が書かれていました。

母親は遺棄する前日、教会に電話しており「(教会の方に)話を聞いてもらい、温かい言葉をかけてもらえたこと、本当に救われた思いがしました。心からありがたく思います。あのままではどうなっていたか分かりません」と感謝の言葉がありました。また、教会の方の助言を無視して、遺棄する行動についてのお詫びも書かれていました。

この手紙はその時、電話で対応してくれた教会の方に向けたもので、その内容は、

「私の言葉をもう少しきいてください。」の書き出しで、妊娠していると気づいたのは付き合っている人と別れた後で、悩み苦しみ、おろすことも考えたようです。しかし、そのためのお金も相談する人もいないでいるうち、どんどんお腹が大きくなってしまい、どうすることもできず、人に隠し、病院にも行けずに、3月12日に一人で出産したとのことです。出産して、現実的にこの子を育てることができないと分かったようです。金も、時間も、助けてくれる人もいなく、親にも友達にも言えなかったのです。

「毎日、子どもを抱きしめ、命の重さを感じ、解決策を探しもとめました。しかし、考えても考えても答えは見つかりません。すぐに泣いてしまうこの子から少しでも離れることが怖くて、出産後からは我が子を腕に必要なものを買うため、暗くなってから出かけたりしています。動き回っているせいか体調も悪く体もだめになりそうです。そんな毎日が苦しいのです。ただ怖くて、一人ではどうすることもできなくて、壊れてしまいそうです」とあります。

「お願いします。私には他に頼れる人がいません。あなた様の手で、この子を育ててくださる方を探してもらえないでしょうか。この子は、私といては幸せにはなれません。どうか救ってやってください。私のしていることは間違っていることだと分かっています。母親である私の手もとからこの子を手放したことを、この罪を一生をもって償いたいと思います。どうかお許しください。」

「このような紙に、つたない文章で申し訳ありません。どうか、この子を、私を、お許しください。どうか、よろしくお願いいたします。あなた様を信じさせていただきます。3・19」と悲痛な叫びでした。

これは、母親が名乗り出ないこと、また、捜査が進まず情報が得られないことから小金井署が公開したものです。

教会関係者の適切な対応で最悪の事態は避けられました。

(つづく)