置き去られた乳児⑥
Aちゃんの1歳の誕生日が過ぎ、6月の市議会定例会の直前に坂田米子福祉推進課長(後に小金井市初の女性部長)と乳児院に面会に行きました。
いつも受付で大歓迎されるのが、その日はなぜか職員の対応がぎこちないのです。これまではすぐに通されたのが「少しお待ちください」と言ってその職員は受付から引き込んでしまいました。
戻ってきた職員は、「申し訳ありませんが、お会いにならないでいただきたいのです」と言うのです。私は驚きました。怪我をしたのか、病気なのか?当然「どうしてですか」と聞くと、職員は申し訳なさそうに「実はAちゃんを養育してくださる方が決まりました。面会にも度々来られ、相手の家にお泊まりに行ったりして、Aちゃんもなついてます。ここで、お二人にお会いするとAちゃんが混乱してしまうのではないか」との心配からの対応でした。
Aちゃんは平成16年3月12日に生まれ、1週間後の19日(金)夜、本町5丁目の教会玄関前に遺棄されました。翌20日小金井警察署から連絡があり、病院で初めて面会しました。その後、私は職務として苗字と名前をつけ、本籍を定め出生の手続きをしました。また、乳児院に移ってからも一人の面会者もいない彼女の面会を続け、祖父母らしき対応をしてきた私たちは、このまま会わないで帰ることにはならないのです。
私は、「どうしても最後に一度だけでも会わせて欲しい」とお願いしました。
職員は再度の打ち合わせの後、「大変失礼しました、どうぞお会いしてください」と言っていつものプレイルームに通されました。後はいつも通りです。職員から「Aちゃん、おじいちゃんおばあちゃんですよ」と入ってきて抱いた腕から下ろされ、よちよち歩きで近付いてきました。そして職員が「Aちゃん、ぎゅうしてあげて」と言うと、Aちゃんは両手を差し出す坂田さんの首に抱き付きました。暫くして「おじいちゃんにも」と言われて、私の番が回ってきました。これが最後だと思うと辛く寂しく複雑な気持でした。
元気で可愛いAちゃんの里親を希望する人は多く、その中から、選ばれて「特別養子縁組」が決まりました。
Aちゃんは現在14歳、中学3年生になっています。一般的に16歳から18歳くらいまでに他から耳に入る前に、養父母から出生の事実が告げられるようです。その時の養父母の気持ち、それを聞くAちゃんを考えると辛くなります。
事情を知った子どもは養父母と乳児院を訪ねるようです。
Aちゃんが乳児院を訪ねると、そこに保管されている彼女の所持品から、私や坂田さんの存在を知ることになります。その時、私たちを訪ねて来てくれることを願うのです。
Aちゃんを遺棄し、罪の呵責に常に苦しんでいる母や、彼女の誕生すら知らない父が誰なのかを知りたくなることでしょう。
彼女には、この世に生を受けたことに、感謝の人生を送ってくれることを切望します。
私も彼女と再び会えることを心待ちに、その時まで元気でいたいと思っています。
(つづく)