走り続けた16年(40)

苦闘する庁舎問題⑪

平成25年12月を更新期限とする第二庁舎の賃借期間が切れましたが、賃料に関し合意できず、市が裁判所に調停を申し立てるなど、三菱UFJ信託銀行との交渉が難航する中で、所有者と三菱UFJ信託銀行の間で信託契約の解除に向けての協議が進んでいるとの報告がありました。

市は、理事者(市長、副市長、教育長)と全部長の出席する庁議や、上原秀則副市長を会長とし、部長職者等による新庁舎建設検討委員会での審議を重ね、あらゆる方策のひとつとして第二庁舎取得の検討も行うことにしました。そこで、市が取得するとした場合の適正な価格を確認するため庁議に諮り、7月18日、予算を流用して不動産鑑定を行うことを決定するなど、職員は持ち場持ち場で積極的に、取得に向けての検討に入りました。

この様な経緯については代理人を通して所有者に伝えるとともに、困難になるであろう議会対応のため、志を同じくする半数を超える議員には節目節目で私の考えを伝え、意見を求めていました。

平成26年8月18日、第二庁舎の所有者と三菱UFJ信託銀行との信託契約が解除されたことにより、所有者と市との直接交渉が可能になりました。そこで所有者との交渉の中で、条件さえ折り合えれば売却してもいいという意向を改めて確認しました。

9月1日、不動産鑑定書が納品されました。9月3日、私は上原副市長が会長を担う小金井市不動産価格審査会に不動産鑑定で示された金額で市が取得することが適切であるか否かを諮問し、審査会は適正であるとの判断を示しました。そこで、私は、その価格を所有者に提示し、売買の条件に合致するか否か、早急な検討をお願いしました。

結論を急ぐ理由は、9月中旬までであれば、低利の振興協会の起債が可能であり、約6千万円の財政効果があるからでした。

9月9日、市側は、私と総務部長、相手方は所有者の成年後見人と後見監督人、それに、所有者の代理人との交渉となりました。

専門家による不動産鑑定で示され、不動産価格審査会において決定した金額を改めて所有者側に提示し、その金額での売買契約について合意しました。

市が取得するにあたっては議会の議決を要するため、契約は議会の議決を得ての条件付きではあります。

第二庁舎を取得することのメリットは、悲願のリース庁舎解消となります。また、賃貸借契約に伴う保証金7億円が市に返還され、それに低利の起債を活用することで取得に際し一般財源を必要としないことです。

さらに、貸借料の年間2億2千万円より起債の年間償還金の方が、遥かに安価であり、貸借を継続することに比べて財政効果があることからです。

平成26年第3回定例会は、既に9月1日に始まっていましたが、9日に所有者との売買の同意も整ったこともあり、財源も確保できたことから緊急に第二庁舎の土地と建物の取得費、18億6594万円を含む補正予算を追加で提案することにしました

(つづく)

走り続けた16年(39)

苦闘する庁舎問題⑩

平成26年度に入り、新庁舎建設事業については、新庁舎建設基本計画で示したスケジュールに沿った円滑な事業の進捗が図れるよう検討を重ねましたが、社会的影響による異常な建設費の高騰から、建設事業費55億円での計画が30%アップの70億円を超えることが試算されました。

全国各地で公共施設建設の入札は軒並み不調となり、各自治体は予算を増額して対応するか、計画の変更や中止の判断に迫られていました。

小金井市は元々財源確保が困難であり、無理すれば市民サービスにも影響を与えることから、財源が確保できるまでの間、事業を凍結することにしました。平成4年120億円の蛇の目工場跡地取得の経過が私のトラウマになっていたのです。

議会の一部からは、リース庁舎の契約延伸につながるとの厳しい意見も一部には出ましたが、基本設計委託費の執行は見合わせることにしました。

一方、第二庁舎の賃貸借契約更新の交渉を三菱UFJ信託銀行と続ける中で、信託契約の解除に向けての協議も進めているとの情報が、所有者、信託銀行の双方から得ました。30年の信託契約が20年での解除になるのですが、市は当事者でないことから、立ち入る立場にはなく、両者の協議を黙って見守っているだけでした。

7月下旬、三菱UFJ信託銀行から8月18日付けで信託契約を解除する旨の通知を受け、市は、その場合の第二庁舎や駐車場に係る地位継承に関する合意書の締結などの諸手続きの準備に入りました。これまでは、所有者との直接交渉はできず信託銀行との交渉でしたが、これからは、直接交渉ができることになりました。

交渉には、第二庁舎の賃貸契約を担当し、所有者が成年後見制度を利用するなど煩雑な法的課題があることから、市側は総務部長を同席させました。

市としては、信託契約が解除されれば取得することも可能であり、平成23年度に起債の要件が大幅に緩和されたこともあり、取得に当たり起債の活用ができることを確認していたのです。

信託契約の動向も全く分からない4月の時点で、職員が私の「あらゆる方策を…」の発言から、具体的指示もない中、自主的にリース庁舎の取得に、市町村振興宝くじの収益等を活用した、都市町村振興協会の超低利による起債が可能か東京都と協議し、計画が実現しない場合は取り下げることを条件に起債計画書を提出していたのには驚かされましたが、職員がここまで考え行動していてくれたことには感謝でした。

市民も議会もリース庁舎の早期解消を求めていました。リース庁舎を解消するには新庁舎を建設するか、第二庁舎を取得するかの方策しかなく、第二庁舎取得はリース庁舎の解消となり、それによって新たに生み出される財政効果等を活用し、新庁舎建設の財源確保を図ることとが、現実性のある選択肢と考え、それを目指すことにしました。

私と所有者との協議の中で、所有者には売却の意思があり、条件さえ折り合えれば売却してもいいという意向を確認しました。

(つづく)

走り続けた16年(38)

苦闘する庁舎問題⑨

私は、佐藤和雄市長の下で平成23年6月に設置された「新庁舎基本計画市民検討委員会」の答申を尊重し、「市庁舎建設基本計画」を作成しました。

この計画の不安材料は財源問題です。後年度負担になる34億円の借入金や10億円の一般財源投入などが、蛇の目工場跡地取得の時の借入金の返済が市財政を圧迫したのが私のトラウマになっていました。他市のように潤沢な基金(貯金)の裏付けがあってのことでなく危機的な財政状況の中での不安定なやり繰りでの計画なのです。

リース庁舎からの脱却を願う議会は、庁舎建設には常に積極的でした。そのため、予算を執行する責任ある立場の私は、それに流されないよう慎重な判断にならざるを得ませんでした。

新庁舎建設基本設計委託費3千291万円を含む平成26年度の一般会計予算は、賛成多数により議会の議決を得て、平成26年度がスタートしました。

そこに、大きな問題が派生したのです。

それは、平成23年3月11日に発生した数百年に1度ともいわれる大災害、東日本大震災の復旧、復興事業と平成32年の東京2020オリンピック・パラリンピックに向けての建設ラッシュが重なり、建築資材の異常な高騰、技能労務職者の不足による人件費の高騰が重なりました。

そのため、55億円で計画していた新庁舎の建築費は3割アップの70億円を超えることが想定されました。これは、前年の予算編成時から予想されていたものですがそれが現実になってきました。

そこで私はその動向を見定めるため、予算の執行を見合わせることにしました。議会では厳しい議論になりましたが、私は、再び蛇の目工場跡地の購入の轍を踏まないことを決意していました。

議会では、新庁舎建設の着手が遅れればリース庁舎の延伸につながり、地主と信託銀行を儲けさせるだけだとの議論もありました。

しかし、内情は全く別で、市と信託銀行の間では賃貸契約の契約期間が切れた後でも、契約期間と賃借料で厳しい交渉が続いていたのです。結局、この賃貸借契約に関しての交渉は、三菱UFJ信託銀行の担当トップと私との直接交渉になりました。

私が直接交渉に乗り出したのは、膠着状況にある交渉を打開することと、地権者と信託銀行が今後も信託契約を継続していく意思があるかどうかを探るためでした。

リース期間については市の主張が通り、新庁舎建設基本計画の庁舎完成時期を鑑みて平成30年8月末日までの4年8か月間で合意しました。しかし、金額は折り合えず、結局、議会の議決を得て、裁判所に調停を申し立てました。裁判所の裁定は双方が歩み寄る形の決着になりました。

その交渉の中で、第二庁舎の所有者も信託銀行も信託契約には双方にメリットがなく、信託契約の解除も考えていることが推測されました。それにより新たな展開が想定されることになりました。

(つづく)