走り続けた16年(182)

「或る障がい者の死」⑦

令和2年8月13日午前10時20分、桜町病院のホスピスで身体、知的に重度の重複障害のある山ヵ絵里さんが、10年間通所していた当時の小金井市障害者福祉センター所長の吉岡博之さんと私が見守る中で息を引き取りました。享年61歳でした。

8月18日に東小金井駅北口の小金井会館において、納棺の儀、お別れの儀の花入れと簡素な葬儀、そして、火葬。その後、両親の眠る多磨霊園みたま堂に納骨しました。

私は、絵里さんの父恭一さんの遺言にあった「全財産を小金井市の障害者事業に寄付する」とし「(絵里さんが)将来的に生活が維持継続できるように」との遺言が常に頭をよぎっていたのです。

今、みたま堂の中で両親とどの様な会話を交わしているのか。

絵里さんの身の回りの物は吉岡さんと私で整理し、金銭関係は介護福祉士の後見人と弁護士の後見監督人が当たりました。

絵里さんの財産は事務的に国庫に帰属させるのでなく、父恭一さんの遺言にあった「障害者福祉事業に寄付する」との思いを参考に平成28年11月28日、八王子療護園において公証人、医師等関係者10数人により、法に基づいて作成された遺言公正証書の内容に従って整理されます。

後見人の体調不良、後見監督人の多忙ということなどや、その両者の報酬額の家庭裁判所での裁定等の事務処理には多くの時間を要しました。その間も、私は、後見監督人と電話やメールで状況は把握していました。

年内に解決したいとの思いでしたが無理で、本年1月9日、立川の三多摩法律事務所で後見監督人から遺言執行人である私と吉岡さんへの事務引継ぎが行われました。

そこで、後見監督人から示された遺言執行の大まかな流れは、まず、相続人調査に始まり、次に、執行先である小金井市への通知と進め方の協議です。さらに、絵里さんの預金のある二つの金融機関への連絡と解約の手続きの協議。家庭裁判所に遺言執行者の報酬付与申立を行い、その審判(決定)をもらい、遺言を執行し、執行完了を小金井市に報告するというものでした。

遺言執行者に指名された私と吉岡さんが引継いだ通帳に記載されていた財産は、三菱UFJ信託銀行本店の預金1億523万余円、みずほ銀行小金井支店の預金205万余円が記入された通帳で、その金額は私には全く関係のない単位であり、その他、現金は13万4千682円でした。

遺言執行の手続きで必要なことには、私たち遺言執行者に対する報酬もありました。私も吉岡さんも遺言執行者としての報酬を受け取る考えはありませんでしたが、手続きは進めざるを得ず、家裁での審判となります。

本年3月9日、東京家庭裁判所において二人に同じ内容の審判が下りました。
 1 公正証書の執行に対する報酬を、金15万円とする。
 2 手続き費用は申立人の負担とする。
 というものでした。

後は、市との手続きだけを残すのみとなりました。寄付するにもかかわらず、手続きは繁雑でした。市との何回かの打ち合わせで、市に提供した資料には財産目録があり、それを証明するための種々の資料でした。

(つづく)